仙台高等裁判所 平成2年(行コ)1号 判決
控訴人
三八五交通株式会社
右代表者代表取締役
伊藤彰亮
右訴訟代理人弁護士
高橋勝夫
同
清水謙
被控訴人
青森県地方労働委員会
右代表者会長
高橋牧夫
右指定代理人
関谷耕一
同
櫻田喜代司
同
成田哲朗
同
良原せつ
同
三上京一
同
藤本幸男
参加人
三八五交通労働組合
右代表者執行委員長
山名文世
右訴訟代理人弁護士
金沢茂
同
石岡隆司
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、青地労委昭和五八年(不)第二六号、昭和五九年(不)第一〇号、同年(不)第一一号不当労働行為救済申立事件について、昭和六〇年一一月五日付けでした原判決別紙命令書記載の命令中主文第1項及び第2項を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。
二 被控訴人及び参加人
主文と同旨
第二当事者の主張
当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(控訴人)
一 観光ハイヤーの配車問題について
1 観光ハイヤーの配車回数問題が不当労働行為を構成するか否かを判断するに当たっては、控訴人が従来実施してきた観光ハイヤーの配車についての運用実態、すなわち、控訴人が観光ハイヤーの配車回数の平均化を従来どのような方法で行ってきたのかを理解することが必要である。そうでなければ、不当労働行為の成否の判断などできるはずがないのであるが、被控訴人は、控訴人が実施してきた観光ハイヤーの配車に関する運用の実態について一顧だにすることなく判断に及んだ誤りを犯している。
従来、控訴人において観光ハイヤーの配車業務を担当してきた責任者は、本社営業所長の小笠原清造である。小笠原清造は、観光ハイヤーを配車するに当たっては、従来より、後記の理由からいわゆる担当者(観光ハイヤーに利用される中型車の車両責任者)についてのみ、その能力、仕事の難易度等を勘案したうえ決めており、配車回数の平均化の期間についても、シーズン(例年五月から一〇月まで)を通してでなければ平均化することが困難であったことから、シーズンを通してその平均化を実施してきた。
ところが、被控訴人の命令は、期間の点について、昭和五八年の八月から一〇月までの期間のみを問題としているが、そのような短期間をもって不当労働行為の成否の判断をなし得る余地はなく、また、いわゆるスペア(中型車の担当者が公休などで乗務しない場合に乗務するもの)の平均化についても問題としており、従来の配車に関する運用実態を無視した誤りがある。
2 観光ハイヤーについて、配車回数の平均化を考えるに当たっては、担当者についてのみ、しかも、特別な事情のある担当者及び乗客から特に指名のあった者を除いて平均化すべきである。
すなわち、観光ハイヤーによる観光業務については、本来、担当者が当該日に出番の場合のみ配車すべきものである。スペアは、一人前であると認められている担当者と異なり、担当者の見習いに過ぎず、一般的に観光ハイヤー業務に関する能力も劣っており、到底平均化の対象とすることができないからである。
担当者についてみると、例年どおりに稼働できた昭和五八年一〇月において(そもそも、一か月間では、担当者についてもその配車回数の平均化は図れないのであるが)、参加人所属従業員の平均配車回数は六・〇回であり、タクシー支部所属従業員の平均配車回数である五・一五回をはるかに超えている。
3 担当者でも、成績不良などの特別の事情のあるものは、比較の対象から除外されるべきである。
特別の事情のある者を具体的に述べれば、次のとおりである。
(一) 下舘元次郎 控訴人は、昭和五八年当時において、観光ハイヤーの配車する基準の一つとして、通常業務(いわゆる流し営業)に対する勤務態度をも勘案していたものであるが、同人は、通常業務が不誠実であり、再三にわたる指導又は注意にもかかわらず、車庫などで座席を倒して寝ていたり、無線呼出しに対して応答しないことが多く、また、観光業務が終了すれば、直ちに帰庫して勤務終了まで通常業務に就かなければならないのに、途中で休憩を取り、時間調整して勤務終了間際に帰庫するなどの勤務態度であったため、原則として、同人に対する観光ハイヤーの配車を控えざるを得なかった。
(二) 沼田芳美 同人は、特定の観光業務(三沢空港→十和田湖(泊)→花巻(泊)→仙台)について、自ら能力の欠如を理由に拒否したことがあるのみならず、通常業務に対する勤務態度も不誠実であり、例えば、再三の指導又は注意にもかかわらず、営業収入の上がらない八戸駅構内で客待ちをし、AVMで確認のうえ無線による呼び出しをしたにもかかわらず応答せず、そのため乗客からの注文に応じられなかったことがあったため、原則として、同人に対する観光ハイヤーの配車を控えざるを得なかった。
(三) 今泉十四三 同人は、高血圧症などのため、昭和五七年三月一〇日、同年四月一七日、昭和五八年一月五日及び同年八月一六日と頻繁に交通事故を起こし、そのため連続して長距離を走行する観光業務に対し自信を喪失し、同年八月には同人から中型車から降りたい旨の要望が出されていたものである。しかし、シーズンの途中でもあり、そのまま中型車の担当者として勤務してもらったものの、本人の要望を容れて、原則として、同人に対する観光ハイヤーの配車を控えたものである。なお、同人には、同年一二月に青森県自動車事故対策センターにおいて運転適性診断を受診させ、その結果をも勘案して、昭和五九年一月より小型車への乗務を命じている。
4 乗客から個別乗務員が指名された場合には、会社の裁量による配車はできないから、配車回数の平均値の算定から除外すべきである。
昭和五八年八月から一〇月までの間、乗客からの指名のあったことは事実であり、原判決が、これに沿う(証拠略)の記載及び(人証略)を排斥したことは不当といわなければならない。
5 観光タクシーが同一の梯団を組む必要がある場合、参加人組合の組合員とタクシー支部組合の組合員との組み合わせをすると、トラブルが発生する虞れが強かったため、これを防止するため、できるだけ同一の組合員をまとめて配車する必要があった。これも、観光ハイヤーの配車回数を平均化できなかった要因の一つである。両組合員間におけるトラブルの例として、次のような事件があった。
(一) 参加人の組合員である佐々木克治は、昭和五八年七月二二日、白銀営業所前路上において、同僚に対し暴言を吐き、もって、佐々木は会社に対し始末書を提出した。
(二) 参加人の組合員である上野秀春は、同年八月二五日、無線を用いて同僚に対していやがらせの交信を行い、もって、上野は会社に対し始末書を提出した。
(三) 参加人の組合員である門上実は、昭和五九年一月二七日、桔梗野営業所の事務所において、同僚に対し不快感を与える発言をし、もって、門上は会社に対し始末書を提出した。
(四) タクシー支部従業員の自家用車に対して傷が付けられる事件が多く発生した。
6 観光ハイヤー業務についてコース別に難易度に差があり、また、乗務員の観光ハイヤー業務に対する能力にも個人差があり、これが観光ハイヤーの配車回数を平均化できなかった要因の一つでもある。
これを具体的に主張するならば、乗務員の能力差については別紙1「観光ハイヤー乗務員の能力一覧表」(略)記載のとおりであり、コース別難易度については別紙2「観光コース難易度一覧表」(略)記載のとおりである。
二 三六協定問題について
1 原判決には、三六協定締結問題について、判断の方法論において基本的な誤りがみられるものであり、取り消しを免れない。
すなわち、複数組合が存在する企業において、一方の組合に対する三六協定の締結、不締結が不当労働行為を構成するか否かの判断に際しては、当該企業が両組合に対して平等な対応をしたか否かが、唯一の判断方法であるべきである。このことは、最高裁判所昭和六〇年四月二三日判決(判例時報一一五五号二三三頁、いわゆる日産自動車株式会社事件)の趣旨からも明らかである。
本件において、三六協定締結問題をみた場合、控訴人は、両組合に対して平等な対応をし続けてきたものである。すなわち、タクシー支部が結成された後、控訴人は、両組合に対して、期間を一年間として要請し続けてきているところであり、参加人に対してのみ、三六協定締結の要請をしなかったり、締結を拒否したりしたことは全くなかった。具体的にこれを述べれば、昭和五九年七月二一日以降、控訴人は、タクシー支部との間で期間を一年間として締結し、参加人とは期間を三か月として締結したが、これは、参加人から、組合役員改選時期との関係で締結期間を三か月にして欲しいとの合理的理由による要望がなされ、これを控訴人が受け入れたためである。その後の同年一〇月二一日以降について、控訴人は、タクシー支部との関係において平等になるように、控訴人に期間を一年間として要請し続けてきたものである。かかる控訴人の参加人に対する取り扱いが不当労働行為に該当することはあり得ない。
2 三六協定の締結に関して、昭和五九年一〇月一八日から同月二〇日までの経過をみると、控訴人は、三六協定の締結に向けて最大限の誠意を示し続けたにもかかわらず、参加人は、終始、不誠実極まりない態度をとり続けて三六協定の締結を拒否し、その結果、無協定状態を出現せしめたものであり、新たな協定を締結できなかった原因は、すべて参加人にあるといわざるを得ない。
原判決が、参加人の交渉態度に問題があったとした点は正当であるが、控訴人にも原因ありとした部分の判断は、余りにも杜撰であり、不当といわなければならない。
3 原判決は、控訴人が昭和五九年一〇月二四日付け「三六協定について」と題する文書(社報)の末尾に、「会社は今後、参加人に対して三六協定の締結を要請しないことを言明する。」と記載して、今後参加人と三六協定を締結することを拒否する旨明言したとしているが、正鵠性を欠いた事実認定である。
同文書の末尾には、右のような記載はあるが、その直前に、「以上の経過、背景をふまえて」とあるごとく、参加人が三六協定の締結を一方的に拒否したものとしか評価できない不誠実極まりない態度があったのであり、また、同月二二日ないし二四日にわたって開催された全員集会の状況を勘案して、右のような表現になったものであり、控訴人が一方的に三六協定を拒否したものではない。
4 原判決は、参加人が昭和五九年一〇月二五日に三六協定締結等をあっせん事項として被控訴人にあっせんを申請したことに対し、控訴人がこれに応じなかったため、あっせんは開始にも至らなかったとしているが、事実誤認というべきである。
すなわち、控訴人に「斡旋申請書」及び「あっせん開始について」と題する書面が手交されたのは同年一一月六日のことであり、その際、控訴人は、これを持ち帰って伊藤社長と相談する旨回答した。しかし、その後、本件あっせん申請について、被控訴人から控訴人に対して何の連絡もなかった。したがって、本件あっせんは正式には開始されなかったものである。
ちなみに、控訴人は、同年一一月二日の事実上のあっせんには応じており、伊藤社長も出席のうえ、被控訴人職員から、「会社は六か月で三六協定を締結する意向はないか。」と打診されたことに対し、控訴人は、「会社が六か月で三六協定を締結しようとして譲歩して提案したのに対して、組合から何ら意思表示がなく、しかも、情報によると集会で一か月をもって押し通すと決めたようであり、期間一か月に固執していると受け取られるので、六か月で話し合っても締結できないであろう。」と回答しているものである。
5 昭和五九年一〇月二九日、三沢駅前営業所の参加人組合員が、参加人を脱退して新労働組合を結成し、控訴人に対し三六協定を締結してほしい旨申し入れたことに対し、控訴人がこれに難色を示して応じなかったとの点について、原判決の事実認定は正鵠性を欠くものである。
右同日、「三八五交通三沢労働組合」と称する組合の代表者から、「通告書」(〈証拠略〉)と「三八五交通三沢労働組合役員及び組合員名簿」(〈証拠略〉)が控訴人に提出されたが、その規約も具体的な組合員名簿も、従来所属していたタクシー支部あるいは参加人の脱退届の写しの提示もなかったのみならず、その役員名簿の中には、三沢営業所勤務の従業員の名前(具体的には、書記長吉田文雄)も見られたため(控訴人では、三六協定締結の事業所として、三沢営業所と三沢駅前営業所とを別個の営業所として取り扱っている。)、控訴人は、新しい労働組合が結成されたとする具体的な疎明を求めたところ、右代表者らは控訴人の言い分を了解し、前記申し入れを取り下げたものであり、その後、右代表者から何の言動もない。
しかも、当時、三沢駅前営業所の従業員数は二四名であり、参加人の組合員が過半数を占めていたため、新しい労働組合が本当に結成されたか否かを確認せずに対応した場合、逆に参加人との関係で新たな労使紛争を発生せしめる可能性もあった。したがって、「控訴人が、これに難色を示して応ぜず」など言い得ないことは明らかである。また、原判決が、「これらの者がタクシー支部に加入して初めて、控訴人は右営業所において三六協定を締結した。」とした点について、労働法理論に照らして控訴人は当然のことをしたまでのことである。
6 原判決は、参加人が昭和五九年一一月一九日従来の期間一か月の主張を取り下げて、期間六か月で三六協定を締結するよう団体交渉の申し入れをした際、参加人の同月二六日開催の申し入れに対し、控訴人が迅速な対応をしなかったと認定したが、誤りというべきである。控訴人は、参加人の申し入れのわずか五日後に回答しているのであり、また、現実の団体交渉も開催希望日よりわずか四日後に開催されているところである。
原判決は、同月三〇日開催された団体交渉の席で、控訴人が実質的な話し合いに応じようとしなかったと認定したが、これも事実誤認である。右団体交渉の席上、伊藤社長は、「一〇月二〇日午後一一時の電話連絡は、組合に再検討を要請したのに、何ら回答がなかった。書記長へ昭和五一年のような不幸な事態だけは避けようと話してあったのに、このような事態になった責任は執行部にあるのではないか。一一月一九日の団交申し入れに対し、二四日に文書で三〇日開催の返事をしているので、団交拒否ではない。いずれにしろ、組合が地労委へ申立てをしているのであるから、地労委の推移を見て対処する。」旨発言したところ、参加人から格別の異議がなかったものである。
7 原判決が、参加人組合員の根城信一が吹上営業所の全運転手を代表して、また、参加人組合員の中村光雄が白銀営業所の全運転手を代表して、それぞれ控訴人に対し営業所毎に三六協定を締結してほしい旨の請願書を提示したが、控訴人は三六協定の締結に応じなかったとしているが、正鵠性を欠いた事実認定である。
各代表者から各々請願書が提示されたのは事実であるが、奥寺次長から、労働基準法上、吹上及び白銀各営業所において三六協定を労働者代表として締結しうるのは、いずれも過半数を占めている労働組合であることを説明され、右の各代表者とも納得のうえ各請願書を持ち帰ったものである。その後、右の各代表者から控訴人に対して何の言動もない。
よって、控訴人において、請願書の受取りを合理的理由もなく拒否した事実はない。
(被控訴人)
一 控訴人の主張一の各事実のうち、下舘元次郎、沼田芳美及び今泉十四三についての具体的記述、両組合員間におけるトラブルの実態、観光ハイヤー業務における乗務員の能力ランク及びコース難易度についてはいずれも不知であり、その余については否認ないし争う。
二 同二の各事実は否認ないし争う。
被控訴人は、三六協定締結問題について、「無締結状態に至ったことについて、どちらか一方に責を負わせることはできない。」とし、「無協約状態に入ってから会社のとった措置には、次のとおり問題がある。」とした上、会社が行った三六協定締結拒否及び配置転換・交番変更について不当労働行為と認定したものであり、このことは、控訴人の引用する最高裁判所判決の趣旨に何ら悖るものではない。
(参加人)
一 観光ハイヤーの配車問題について
1 控訴人の主張一1(観光ハイヤー配車の運用実態)について
控訴人において観光ハイヤーの配車業務を従来より担当してきた責任者が小笠原清造であることは認めるが、その余は否認する。
観光ハイヤーの配車回数の平均化について、担当者のみ、しかもシーズンを通してでなければ平均化が困難であるとの合理的理由はなく、また、控訴人において担当者についてのみかつシーズンを通して平均化を実施してきた事実はない。
2 同一2(担当者についてのみ平均化を図るべきこと)について
控訴人は、観光ハイヤーの配車について平均化を図るべきは担当者のみであるとして、その根拠として、スペアは観光ハイヤー業務の能力が劣り、担当者が原則として三輪番を勤務交番とするが、スペアは三日に一回しか中型車に乗らない補助的な運転手であるかのような主張をする。しかし、タクシー乗務員の勤務交番をみると、皆同じ時間帯に勤務する訳ではなく、しかもタクシー自体は二四時間動いている(但し、深夜から早朝にかけて一部の車は休む。)。タクシー一台当たりに乗務員二人程(控訴人の場合は一台当たり二・一四人位)を充て、乗務員は交代で休みを取ることとなる。もっとも、控訴人の勤務交番は一二時間交代ではないから、二人が常に交代で入れ替わるというわけではない。担当者とスペアの乗務時間が一部重なる場合もあり得る。その場合には、スペアは他の中型車に乗ることになる。
結局のところ、担当者とスペアとの違いは、担当者は基本的に同じ車に乗り、その車の責任者となるが、スペアは、勤務交番が担当者と同じように組まれているが、中型車の中でも勤務時に空いている車に乗り、いつも同一の中型車ではないという点だけである。また、能力的にも落ちるわけでもない。
現に、原判決も指摘するとおり、参加人とタクシー支部とも、同じ組織間で配車回数を比較すると、担当者もスペアもそれほど大きな差はない。タクシー支部の場合、むしろスペアの方が配車回数が多くなっている事実がある。
控訴人のこの点に関する主張は否認ないし争う。
3 短期間での平均化は困難であることについて
否認ないし争う。合理的な理由がない限り、全体の配車回数が少なければ、少ないなりに公平に配車しなければならないのであって、ただでさえ配車回数が少ないときにタクシー支部組合員に優先した配車がなされれば、一層参加人組合員にとって不利益となる。また、個々の乗務員間でみると、その平均化は一か月だけでは難しいということが言えようが、ほぼ同じ人数の二つの集団間において、一か月間に大きな差が生ずるというのも不自然かつ不合理である。
4 同一3(特別の事情のある者の除外)について
否認ないし争う。そもそも、観光ハイヤー業務を行う中型車乗務員は、いくつかの基準をクリアして選任されたものである。すなわち、単にキャリアだけではなく、指示、命令を誠実に実行できること、さらに接客態度、判断力を備えた、成績の良いものとして選任されているのである。ところが、控訴人は、これら乗務員に対して何らの措置を取っていない。また、これら乗務員に関して控訴人が主張する事実については、本人らはこれを明確に否定している。
5 同一4(指名者の除外)について
控訴人は、配車回数のうち、乗客から指名のあった者は除かれるべきである旨主張するが、否認ないし争う。
特に指名された者を除外して回数をみるべきだという特段の根拠はなく、もともとその主張のもとになっている小笠原清造の証言は到底信用できるものではない。また、指名に関する主張の証拠となる点検簿、指示書等は控訴人から一切提出されていない。小笠原証人は、これらの書類は五年間保存しておいたが、その後廃棄してしまった旨弁解する。しかし、参加人が観光ハイヤーの件で地労委へ救済申立てをしたのが昭和五八年一〇月八日であり、地労委命令に対して控訴人が訴訟を提起したのが昭和六〇年一二月一二日である。訴訟提起の時点でも五年の保存期間内であったのに、控訴人はこれを廃棄したことになる。訴訟係属中にもかかわらず、しかも係争事項に直接関係する書類を廃棄するというのは信用できないことである。
6 同一5(トラブル発生の防止)について
控訴人は、参加人組合とタクシー支部組合との間にトラブルがあり、両組合員を同一の梯団として組むことができないことも配車の平均化ができない原因の一つである旨主張する。
控訴人は、参加人組合員三名の例をあげるが、いずれも小型車の乗務員であり、中型車の配車には直接関係はない。そもそも、仮に同一の組合員をまとめて配車する必要があったとしても、参加人組合員に対する配車回数が少なくてもよいことにはならない。
7 同一6(コース別難易度、乗務員の能力差)について
否認ないし争う。控訴人は、当審において乗務員及び観光コースのランク表を提出したが、このランク表は、本件訴訟のために作成されたものであり、すべて小笠原清造の主観によるものであって、判断基準も極めて不明確であるから、到底信用できるものではない。
二 三六協定問題について
1 控訴人の主張二1(判断の方法論についての批判)について
控訴人は、原判決には、判断の方法論において基本的な誤りがあるとして、最高裁判所昭和六〇年四月二三日判決の一部分を引用し、複数組合が存する企業において、ある問題が一方組合に対する不当労働行為を構成するか否かの判断に際しては、当該企業が両組合に対して平等な対応をしたか否かが唯一の判断方法であるとして、本件では、控訴人は両組合に対して三六協定の締結期間を一年間で要請しており、平等な対応をし続けている旨主張する。
しかし、この最高裁判所判決は、控訴人が指摘する部分に続いて、「団体交渉の場面においてみるならば、合理的、合目的的な取引活動とみられうべき使用者の態度であっても、当該交渉事項については既に当該組合に対する団結権の否認ないし同組合に対する嫌悪の意図が決定的動機となって行われた行為があり、当該団体交渉がそのような既成事実を維持するために形式的に行われているものと認められる特段の事情がある場合には、右団体交渉の結果としてとられている使用者の行為についても労組法七条三号の不当労働行為が成立するものと解するのが相当である。」と判示している。結局、この最高裁判所判決は、控訴人が主張するように、不当労働行為の成否を、取引自由の原則に基づき両組合を単に形式的に平等に扱ったか否かで判断するとしたものではない。控訴人の主張は、右最高裁判所判決の趣旨をを正しく把握していない。本件において、被控訴人命令及びこれを支持した原判決は、参加人と控訴人の三六協定未締結に至る経緯及びその後の両者の行動、姿勢等を詳細に検討したうえで、控訴人の不当労働行為の成立を認めたものである。
2 同二2(無協定状態になった原因)について
控訴人は、昭和五九年一〇月二〇日に三六協定が期限切れとなり、新たな協定を締結できなかったのは参加人が締結を拒否したからであると主張する。
しかし、参加人の方から三六協定の締結を拒否した事実はない。期間の点で控訴人と参加人の主張が異なっただけであり、参加人は協定の締結自体を拒否していたわけではない。控訴人における賃金体系は、基本給と共に歩合給を大きな柱とするものであり、時間外労働をしない場合には稼働額が少なくなり収入も激減するから、このような賃金体系を前提とする限り、時間外労働はタクシー乗務員にとって必要不可欠のものであった。したがって、参加人は、期間の点はともかく、三六協定の締結そのものを当然のこととしていたのである。参加人が、期間を一か月と主張した理由は、従前主張してきたとおりであり、いずれにしても、参加人が従前と特段異なった対応をしたわけではなかったが、他方、控訴人は、今回に限って従前とは異なる対応をして、期間につき、六か月ないし一年間にこだわる対応をしたものである。
3 同二3(一〇月二四日付け社報の記載)について
控訴人の主張は否認ないし争う。この社報を素直に見れば、控訴人が今後参加人と三六協定を締結しない旨を社内に宣言したものとしか読めないし、そのようにしか解釈できない。
4 同二4(あっせん開始)について
参加人が申請したあっせんについて、被控訴人が調査を始めたが、控訴人が応じなかったため、あっせんは正式の開始にも至らなかったとの原判決の認定は、事実に基づく限りそのとおりであって、何らの誤認もない。
5 同二5ないし7について
否認ないし争う。
無締結状態になった後の状況、特に、参加人がありとあらゆる手段を用いて協定を締結しようとしたこと、これらに対して控訴人はことごとく要求を退け、参加人が申し入れた団体交渉にもすぐには応じようとせず引き延ばし、ようやく開催した交渉の場でも実質的な話し合いに応じようとしなかったこと等は、控訴人の不当労働行為の意思を推測しうるものであり、原判決の認定は相当である。
第三証拠関係
原審及び当審における各証拠関係目録記載のとおりである(略)。
理由
第一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
一1 原判決二七枚目表七行目の「第一八号証」(本誌五六一号〈以下同じ〉91頁4段1行目の(証拠略))の次に「第四五ないし第五九号証、第六三ないし第六五号証を、同一一行目、同裏一行目の「第六五号証、」(前に同じ)の次に「第六七号証の一ないし九」をそれぞれ加え、同五行目の「奥寺勇五郎の証言」(前に同じ)を「原審証人奥寺勇五郎の証言」と、同七行目の「証人小笠原清造の証言」(前に同じ)を「原審及び当審証人小笠原清造の証言」と、同九行目の「証人大西孝の証言」(前に同じ)を「原審証人大西孝の証言」と、同一一行目の「証人奥寺勇五郎」(前に同じ)を「原審及び当審証人奥寺勇五郎」とそれぞれ改め、同二八枚目表一行目の「各証言」(前に同じ)の次に「並びに当審における控訴人代表者(後記措信できない部分を除く。)及び参加人代表者各尋問の結果」を加える。
2 同三五枚目表八行目の「証人奥寺勇五郎」(94頁2段4行目の(証拠略))を「原審及び当審証人奥寺勇五郎」と、同行目の「及び」(前に同じ)を「、」とそれぞれ改め、同行目の「小笠原清造」(前に同じ)の次に「及び当審における控訴人代表者」を加える。
3 同三七枚目表七行目の「存在については」(94頁4段20行目)の次に「、当審証人小笠原清造の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第八〇ないし第八四号証によれば、その一人とされる担当者今泉十四三に、昭和四五年から事故の発生が見られるようになっており、昭和五七年三月から昭和五八年八月までに四回にわたり事故の発生があったことが認められる以外に、」を加え、同八行目の「証人小笠原清造」(94頁4段21行目の(証拠略))を「原審及び当審証人小笠原清造」と、同一〇行目の「存在しない」(94頁4段24行目)を「存在せず、かつ右今泉十四三についても前掲甲第二三号証の三によれば、右事故発生後も、担当者の地位を変えることなく、回数は少ないながらも配車していることが認められるのであって、右少ない配車回数が事故を理由とするものであることを認めるに足りる証拠は存在しない」とそれぞれ改める。
4 同三七枚目裏三行目の「証人奥寺勇五郎の証言」(94頁4段31行目の(証拠略))を「原審証人奥寺勇五郎及び当審証人小笠原清造の各供述部分」と改める。
5 同三九枚目裏一一行目の「社員」(95頁4段9行目)を「社長」と改める。
6 同四〇枚目裏五行目の「前記の被告のあっせんに応じなかったこと、」(96頁1段9~10行目)を「参加人のあっせん申請に対する調査の際、期間を六か月とする三六協定を締結する意思はないことを表明し、もってあっせん開始に至らなかったこと、」と改める。
7 同四〇枚目裏一一行目の「その開催を引き伸ばしたうえ、」(96頁1段21~22行目)を「申し入れに対する回答及び開催日を先にして、迅速な対応をしなかったうえ、」と改める。
8 同四一枚目表三行目の「十分」(96頁1段27行目)の次に「控訴人の不当労働行為の意思を」を加える。
9 同四一枚目表八行目の「三六協定」(96頁1段30行目)から同一〇行目の「採用できない。」(96頁2段10行目)までを「右配置転換や交番変更が、三六協定未締結の状態に至ったことから一面やむを得ないものともいえるが、しかし、そもそも控訴人は、無協定状態に立ち至るや、その状況を奇貨として、参加人あるいは参加人組合員からの三六協定締結の要請をことごとく拒否し、一方タクシー支部組合員のみに時間外労働をさせて、参加人組合員に対し不利益な取り扱いと動揺を与えることにより、参加人の弱体化又は壊滅を図ったものであり、結局、前記配置転換及び交番変更は、このような差別状態あるいは違法状態を作出、維持するための手段として行われたものといわざるを得ず、右控訴人の主張も採用できない。」と改める。
二 観光ハイヤーの配車問題について
1 観光ハイヤー配車の運用実態について
控訴人は、観光ハイヤーの配車回数問題が不当労働行為を構成するか否かを判断するに当たっては、控訴人が従来実施してきた観光ハイヤーの配車についての運用実態を理解することが必要であるとして、控訴人においては、従来、観光ハイヤーを配車するに当たって、いわゆる担当者についてのみ、その能力、仕事の難易度等を勘案したうえ決めており、平均化の期間についても、シーズンを通してその平均化を実施してきた旨主張する。
不当労働行為の成否を判断するにあたって、当該企業で従来行われてきた運用の実態を把握し、これとの比較において、当該行為が不当労働行為の意思を推測されるものであるかを判断することはもとより重要な事柄であるといわなければならない。そこで、本件において、観光ハイヤー配車の実態についてみるに、原判決理由第二項冒頭に掲記の各証拠(以下「前掲各証拠」という。)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人が観光ハイヤーの業務を開始したのは昭和五〇年ころからであるが、昭和五三年ころから昭和五八年ころまでの間、観光ハイヤーに充てる中型車は本社営業所に置かれ、中型車に乗車する乗務員(担当者及びスペア)にその割り当てがなされたこと、旅行業者から控訴人に対し観光ハイヤーの注文があると、本社営業所長である小笠原清造において、当該日が勤務日である中型車の担当者及びスペアの乗務員の中から、その能力、仕事の難易度等を斟酌し、配車回数の平均化が図れるよう考慮したうえ担当する者を決定してきたこと、その際、担当者とスペアについて、配車回数が同一である場合には担当者を優先させるなど、担当者に多少の優遇がなされていたものの、基本的には両者について差別なく配車が行われてきたこと、また、観光ハイヤーが依頼されるコースについては、控訴人の営業の拠点が主に八戸市及び三沢市であったことから、十和田湖を中心に八甲田、八幡平方面が大部分を占め、また、各観光コース毎に観光案内テープもあったことから、コースの難易あるいは能力差が問題となる場合は比較的少なかったことの事実を認めることができる。
右事実によれば、観光ハイヤーの配車の平均化については、従来から、担当者のみならず、スペアについても平均化するように考慮されていたことが認められ、担当者についてのみ平均化を行ってきたとの控訴人の主張は理由がない。
また、右認定の事実によれば、従来から、時々の諸事情により極短期間では配車回数の平均化は困難であったとしても、できる限り短期間における平等な配車が考慮されていたというべきであって、シーズン(五月から一〇月まで)を通してのみその平均化を実施してきたものとはいえず、控訴人のこの点に関する主張も理由がない。
2 担当者について平均化を図るべきことについて
控訴人は、観光ハイヤーの配車について平均化を図るべきは担当者のみであるとして、スペアは担当者の見習いに過ぎず、観光ハイヤー業務に関する能力も劣っている旨主張する。
しかし、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、控訴人における中型車タクシー乗務員の担当者とスペアとの違いは、担当者は、入社後の経験あるいは実績等により特定の車両が与えられ、基本的には同じ車両に乗って勤務を行い、その車両の整備等の責任者となるものであり、スペアは、勤務交番については担当者と同様の勤務交番が組まれているが、当日出勤した際に、中型車の中で空いている車両に乗ることとなり、いつも同一の中型車ではないこと、すなわち、控訴人におけるタクシー乗務員の勤務交番は、担当者及びスペアとも、午前九時から夜一二時まで、及び夕方五時から翌朝午前九時までの各勤務時間があり、各自が二日勤務すると一日休みのサイクルで勤務するものであり、その際、担当者は固定した車両に乗車するが、スペアは空いている車両に乗車するものであること、スペアは、担当者と比べて、経験や実績等が多少劣ることはあったとしても、能力的に劣るとか、担当者の補助者的な立場にあるものではないことが認められる。
右の事実に加え、参加人とタクシー支部とも、前掲各証拠によれば、同じ組合内で配車回数の実数を比較しても、従来担当者もスペアもさほど大きな差がなかったことに照らすと、観光ハイヤーの配車について平均化を図るべきは担当者のみであるとの控訴人の主張については、合理的な理由がなく、到底採用することができない。
3 短期間による平均化は困難であることについて
控訴人は、観光タクシーの配車について平均化を図るためには、昭和五八年の八月から一〇月までのように短期間では困難であり、シーズンを通してでなければ平均化できるものではない旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、時々の諸事情により極短期間では配車回数の平均化は困難であったとしても、シーズン(約六か月間)を通してのみその平均化が可能であるとはいえず、三か月あるいは一か月の期間であっても、その平均化は可能であるといわなければならない。また、原判決が指摘するように、個々の乗務員間では、一か月間だけでは完全な平均化は難しいことが言えようが、ほぼ同じ二つの集団間において、一か月間に大きな差が生ずるというのも不自然かつ不合理である。
4 特別の事情のある者及び指名者の除外について
控訴人は、成績不良などの特別の事情のある者及び乗客から特に指名のあった者については、比較の対象から除外されるべきである旨主張する。
確かに、成績不良など観光タクシー運転手として不適格といえるような特別の事情があり、それにより配車回数の少なかった者、あるいは乗客から特に指名のあった者については、比較の対象から除外されるべきものと解せられる。
しかしながら、本件において、前掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、観光タクシー業務を行う中型車乗務員は、タクシー運転手として経験と実績を有し、経済的にも多少余裕がある者が選任され、さらに、観光案内を行う関係で、指示、命令を誠実に実行でき、接客態度、判断力をも備えた、本社営業所勤務の中型車乗務員として相応しい者が選任されていること、控訴人が成績不良者として指摘する参加人組合員三名について格別に勤務態度不良など中型車乗務員として不適格とする事実は見受けられず、また、同人らに対し主張に沿う処分等がとられていなかったことが認められる。したがって、控訴人の指摘する三名について、比較の対象から除外すべき合理的理由はない。
また、控訴人は、本件の係争の期間中において乗客からの指名された者がおり、これを比較の対象から除外すべきである旨主張し、これに沿う原審及び当審(人証略)が存在する。しかし、その根拠となるべき控訴人において作成している点検簿あるいは指示書等は、控訴人から証拠として提出されておらず、(人証略)は、これらの書類を五年間保存しておいたが、その後廃棄してしまった旨弁解する。しかし、控訴人が本件訴訟を提起した時点でも五年の保存期間内であったのに、控訴人はこれらを廃棄したことになり、不自然であるといわざるを得ず、前記(人証略)はにわかに信用することができず、他に、指名者があったことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、この点に関する控訴人の主張も理由がない。
5 トラブル発生の防止について
控訴人は、参加人組合とタクシー支部組合との間にトラブルがあり、両組合員を同一の梯団として組むことができないことも配車の平均化ができない原因の一つである旨主張する。
しかしながら、控訴人は、両組合員間におけるトラブルの例として参加人組合員三名の各事件をあげる(タクシー支部組合員の車に傷が付けられた事件については、これが参加人組合員によるものと認めるに足りる証拠は存在しない。)が、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、これらはいずれも小型車の乗務員に関するものであること、また、中型車の乗務員が前記のとおり勤務態度、成績等が良好である者の中から選任されていることなどの事情に照らすと、当時、観光ハイヤーの梯団走行の場合に配車方法いかんによっては両組合員間でトラブルが発生する危険性が高くなるとはいえないことが認められる。本件において、他に、両組合員の組み合わせにより、トラブルが発生する危険性が高くなることを認めるに足りる事情又は証拠はなく、控訴人の主張する右事由をもって配車回数を平均化することができなかった原因とすることはできない。
したがって、控訴人の右主張も理由がない。
6 コース別難易度、乗務員の能力差について
控訴人は、観光ハイヤー業務についてコース別に難易度に差があり、また、乗務員の観光ハイヤー業務に対する能力にも個人差があり、これが観光ハイヤーの配車回数を平均化できなかった原因の一つである旨主張する。
しかしながら、前述のとおり、従来、控訴人が観光ハイヤーを依頼されるコースについては、十和田湖を中心に八甲田、八幡平方面が大部分を占め、しかも各コース毎に観光案内テープもあったことから、コースの難易度あるいは乗務員の能力差が問題となる場合は、比較的少なかったことが認められる。
控訴人は、当審において、小笠原清造作成の「観光ハイヤー乗務員の能力一覧表」及び「観光コース難易度一覧表」を提出したが、仮に、主張のような難易度及び能力差があったとしても、右の事実及び弁論の全趣旨によれば、それらを加味したうえであっても、配車の平均化を図ることは十分可能であったというべきであり、控訴人の主張するように、難易度及び能力差が配車を平均化するにあたっての障害になったということはできない。
したがって、控訴人の右主張も理由がない。
三 三六協定問題について
1 判断の方法論について
控訴人は、原判決には、判断の方法論において基本的な誤りがあるとして、最高裁判所昭和六〇年四月二三日第三小法廷判決の一部分を引用し、複数組合が存する企業において、ある問題が一方組合に対する不当労働行為を構成するか否かの判断に際しては、当該企業が両組合に対して平等な対応をしたか否かが唯一の判断方法であるべきとして、本件では、控訴人は両組合に対して三六協定の締結期間をそれぞれ一年間で要請しており、平等に対応をし続けている旨主張する。
しかしながら、右最高裁判所判決は、同一企業内に複数の労働組合が併存する場合、使用者は、すべての場面で各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものとしたうえで、使用者が、現実の問題として、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的な対応をしたとしても、右義務に反するものとはいえないとし、また、団体交渉の場面において、不当労働行為の成否を判断するにあたっては、単に、団体交渉において提示された妥結条件の内容やその条件と交渉事項との関連性、条件に固執することの合理性についてのみ検討するのではなく、当該団体交渉がどのようないきさつで発生したものか、その原因及び背景事情、これが当該労使関係において持つ意味、右交渉事項に係る問題が発生したのちにこれをめぐって双方がとってきた態度等の一切の事情を総合勘案して、当該団体交渉における使用者の態度につき不当労働行為意思の有無を判定しなければならないとしているものであり、結局のところ、使用者に形式的ではなく、実質的に平等な対応を求めているものと解される。
本件において、控訴人は、単に、期間の点でタクシー支部と同一内容になるように、参加人に期間を一年間として要請し続けたというのであり、これをもって右判決にいう控訴人が参加人に実質的な意味において平等な対応をしてきたものといえないことは明らかである。
したがって、控訴人の右主張は理由がない。
2 無協定状態になった原因について
控訴人は、昭和五九年一〇月二〇日に三六協定が期限切れとなり、新たな協定を締結できなかったのは参加人が締結を拒否したからであり、その原因は参加人にある旨主張する。
しかしながら、本件において、控訴人及び参加人の双方とも、新たな三六協定の締結について相手方が拒否したと主張しているが、原判決が認定した事実経過によれば、三六協定の期間の点につき、双方が自己の思惑からその主張に固執して最終的に譲歩できなかったこと、また、交渉の経過からして双方とも交渉の態度に誠実さが認められないことに照らすと、控訴人及び参加人の双方の交渉態度等に問題があったといわざるを得ず、無協定状態になった原因について一方のみに責を負わせることはできないというべきである。
この点に関する被控訴人の命令及び原判決の判断は相当であって、控訴人の主張は理由がない。
3 一〇月二四日付け社報について
控訴人は、昭和五九年一〇月二四日付け「三六協定について」と題する文書(社報)の末尾に、「会社は今後、参加人に対して三六協定の締結を要請しないことを言明する。」と記載された部分について、原判決の事実認定を非難する。
しかし、原審認定の事実経過及び前掲各証拠によれば、同月二一日以降、控訴人と参加人との間で三六協定に関して無協定状態になったが、控訴人は、以後交渉の場においても一切参加人との三六協定締結を拒否する意思であること、もって、参加人組合員には時間外労働を求めず、その結果、参加人組合員にとって経済的不利益を被ることがあることの警告の意味を込めて、三六協定の締結をしない控訴人の強い姿勢を示したものが右社報の記載であることが認められる。
したがって、右社報の記載をもって、控訴人の主張するように、控訴人が三六協定を拒否する趣旨ではないものとは到底認めることはできない。
4 あっせん開始について
控訴人は、あっせん開始に至らなかった経過について、原判決の認定を非難する。
しかし、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、無協定状態になってまもなくの同年一〇月二五日、参加人は被控訴人に対し、控訴人を相手方として三六協定締結等をあっせん事項とするあっせんを申請したこと、これに対して被控訴人は調査を開始したが、その過程で、控訴人は、被控訴人から期間を六か月とする三六協定締結の意向を打診されたが、これを事実上拒否したこと、その結果、あっせんは正式の開始に至らなかったことが認められ、同趣旨である原判決の事実認定に誤りはない。
したがって、この点に関する控訴人の主張は採用できない。
5 新組合の結成について
控訴人は、同年一〇月二九日、三沢駅前営業所の参加人組合員らが参加人を脱退して、新組合を結成したとして、その代表者が三六協定の締結を求めたことに対し、控訴人は、新組合の結成が本当であるか否かの確認ができなかったため、これに応ぜず、右代表者は控訴人の言い分を了解して右申し入れを取り下げた旨主張し、原判決の認定を非難する。
確かに、前掲各証拠によれば、右代表者は、新組合結成の通告書及び役員名簿を持参したが、組合規約、組合員名簿、従来の組合の脱退届けを提出しなかったこと、そこで控訴人は、従来組合との紛争状態にあることをも勘案して、右代表者に新組合結成についての追加の疎明を求めたことが認められ、右状況の下で、控訴人が新組合結成の疎明を求めた行為は、正当なものとして是認できる。
しかし、前掲各証拠によれば、その際、控訴人側から対応に出た奥寺次長は、「タクシー支部に加入するのでなければ、三六協定を締結しない。新組合などとんでもない。」などと述べていること、右代表者は、右発言と追加資料の提出を求める控訴人の応対をみて、新組合による三六協定の締結を諦めたことが認められる。したがって、右代表者が控訴人から指摘された疎明不足を納得して前記申し入れを取り下げたものとはいえない。
したがって、この点に関する控訴人の主張も理由がない。
6 団体交渉申し入れに対する対応について
控訴人は、原判決が、参加人において昭和五九年一一月一九日従来の期間一か月の主張を取り下げて、期間六か月で三六協定を締結するよう団体交渉の申し入れをした際、参加人の同月二六日開催の申し入れに対し、控訴人が迅速な対応や実質的な話し合いに応じなかったと認定した点について、非難する。
しかしながら、原判決認定の事実経過によれば、三六協定に関して、控訴人と参加人とが無協定状態になった後、参加人は、同年一〇月二五日被控訴人に対し三六協定締結等を求めてあっせんを申請したこと、時間外労働ができなくなった参加人組合員は、稼働額の減少という不利益を受け、同組合員の間で不安感が高まり、参加人を脱退してタクシー支部に加入する組合員が続出する事態が発生したこと、同月二九日三沢駅前営業所の参加人組合員が参加人を脱退して新組合を結成し、控訴人に対し三六協定を締結してほしい旨申し入れたこと、そして、同年一〇月二〇日三三四名いた参加人組合員が同年一一月一九日ころには約七〇名まで減少し、参加人にとっては三六協定問題の解決が緊急の事態となっていたことが認められる。
右のような参加人にとって緊急な事態において、参加人は、先に伊藤社長から提案された期間六か月をのむ形で、同月一九日控訴人に対し三六協定の締結を求めて団体交渉の申し入れをしたものであり、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、右のような事態を十分承知していたものと認められるにもかかわらず、申し入れに対する回答を五日後である同月二四日に行い、同月二六日開催の申し入れに対し同月三〇日開催と回答しているものである。通常であれば兎も角、右状況の下では、本件において、控訴人が迅速な対応をしなかったといわざるを得ず、原判決の認定は相当である。
さらに、原判決が、同月三〇日開催された団体交渉の席において、控訴人が実質的な話し合いに応じようとしなかったと認定した点について、前掲各証拠に照らして、あるいは控訴人が引用する団体交渉の席上に於ける伊藤社長の発言内容に照らしても、相当として是認することができる。
7 請願書の提出について
控訴人は、吹上及び白銀各営業所の代表者らが、営業所毎に三六協定を締結してほしい旨の各請願書を持参した際、右代表者らは、控訴人の説明に納得のうえ各請願書を持ち帰った旨主張する。
しかしながら、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、右代表者らが控訴人の説明に納得のうえ各請願書を持ち帰った事実はなく、右代表者らは、控訴人の説明又は態度から、請願書の受領や三六協定の締結は困難と考えて各請願書を持ち帰ったものと認められ、原判決の認定に誤りはない。
この点に関する控訴人の主張も理由がない。
第二 結語
よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 永田誠一 裁判官菅原崇は、転補につき署名押印できない。裁判長裁判官 豊島利夫)